千葉県弁護士会
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会長声明

弁護士報酬の敗訴者負担制度の原則導入に反対する会長声明

1.貴審議会は本年11月20日の中間報告で弁護士報酬の敗訴者負担に関して、「訴訟を必要以上に費用の掛かるものとさせ、また法によって認められた権利の内容が訴訟を通じて縮小されることとなるので、それが訴えの提起をためらわせる結果となるとともに、不当な訴え・上訴の提起、不当な応訴・抗争を誘発するおそれもあるということを理由として、」「弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者に訴訟を利用しやすくするものであることなどから、基本的に導入する方向で考えるべきである。」と、弁護士報酬の原則的(双方向的)敗訴者負担制度の導入を提言したうえで、「労働訴訟、少額訴訟など敗訴者負担制度が不当に訴訟の提起を萎縮させるおそれのある一定種類の訴訟は、その例外とすべきである。」とした。2.しかし、その導入理由自体は一見もっともであるが、必ずしもそのような効果は望めず、当会は次の理由でこれに反対する。

1) 貴審議会は、この制度が一定種類の訴訟は例外として、一般的には訴訟を利用しやすくするとの認識に立っている。 しかし、もともとこの制度は濫訴抑制策として理解されてきたのであり、明らかに勝訴が見込める事件は別として、多くの事件では裁判の見通しが必ずしも自明なものではなく、敗訴者の主張にも一定の理のある場合が少くない。したがって、一定の種類の訴訟に限らず多くの事件では、むしろ逆に訴訟萎縮効果を生むおそれがある。

2) とりわけ、消費者訴訟、労働訴訟、医療過誤訴訟、公害・薬害訴訟、行政訴訟、国家賠償訴訟などでは、その要求が正当なものであっても、法制上の理由や証拠の偏在などの理由で勝訴が困難なことも少くないから、その場合はよりいっそう訴訟の萎縮効果を生むことになる。
これまで、これらの訴訟は、社会的に問題を提起したり、判例変更を迫り、立法府や行政府の政策の変更や制度の改革の実現に結びつくなど大きな成果を上げてきたことから、「政策形成訴訟」と呼ばれてきたが、これらの訴訟提起が抑制されることになれば、司法の役割が低下し、社会の進歩にとって大きな損失である。

3) 弁護士費用の負担の持つ意味は、当事者の経済力によって異なるから、訴訟萎縮効果は、経済的弱者により強く作用する。

4) さらに、例外とされる訴訟類型や要件をどうするかは立法技術的にむずかしく、あと追いになるおそれが強いうえ、要件を判断する裁判官の負担は大きい。

3.弁護士報酬の負担による「権利の内容の縮小」を防ぎ、利用しやすい裁判制度を実現するには、次のような制度の導入や制度の改革、改善こそ、有効である。

1) 消費者訴訟、労働訴訟、医療過誤訴訟、公害・薬害訴訟、国家賠償訴訟などで、消費者、労働者、被害者、国民、住民などが勝訴した場合に限り、一定額の弁護士報酬を企業や加害者、国、自治体などに負担させる、片面的敗訴者負担制度を導入すべきである。 中間報告も指摘するように、すでに不法行為等では一定額の弁護士費用を、不法行為によって発生した損害の一部として認めている。また、個別の法律の中で、株主代表訴訟や住民訴訟では、株主や住民が勝訴した場合の弁護士報酬の支払請求制度が規定されている。そこで、他の訴訟類型へも、これらを参考にした片面的敗訴者負担制度を拡大することが、訴訟をためらっていた多くのこれらの種類の訴訟の提起を促進させることにつながる。

2) 不当抗争については独立の不法行為として訴訟を提起する方法もあるが、その負担は小さくないので、不当抗争を行った相手方に対して、簡易な手続で一定額の弁護士報酬を負担させる制度も検討すべきである。

3) さらに、法律扶助制度を償還制から原則給付制にし、扶助要件もゆるやかにするなどの抜本的な改革、改善が重要である。

2000年(平成12年)12月20日

千葉県弁護士会

会長 守川 幸男
司法制度改革審議会 会長
佐藤 幸治 殿