千葉県弁護士会
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会長声明

市民が参加する司法制度改革の実現にむけて会長声明

1. 司法制度改革審議会の審議が急ピッチで進んでいますが、改革の中心課題であるはずの司法官僚制(キャリア裁判官制度と最高裁による司法行政権の行使)についての議論が不十分なまま推移しています。民事司法の改革に関してはADR(裁判外紛争処理機関)の拡充と紛争の早期解決に力点をおいた裁判の迅速化が強調され、刑事司法の改革に関しては重大事件における迅速な裁判の実現と「公費投入に見合った弁護活動のコントロール」に力点が置かれています。他方、市民や社会的弱者の権利救済より行政や大企業優位に傾いた裁判の実態や、捜査に対する司法的抑制が弱く刑事裁判が捜査を追認する場と化してしまっているという刑事司法のかかえる問題などについての議論は十分でなく、その解決策としての陪審や法曹一元については、今後議論されるとはいえ、消極的な傾向が強くなっています。また、法曹養成制度の「改革」としての「法科大学院構想」についても、あるべき法曹養成制度の理念からではなく、大学の生き残りと法曹人口の大量増員の受け皿の側面が強く、また日弁連が要求している法曹一元に結びつくのかどうか明らかでないなど、市民の立場から必要とされる司法制度改革の視点が不明確なものとなっています。
また、5月18日に公表された自民党司法制度調査会報告書「21世紀の司法の確かな一歩」は、法曹人口の大幅増加と参審制の導入を提言する一方で、陪審制については「我が国には、これが有効かつ安定的に機能する基盤が備わっているとは思われない」とし、また、法曹一元については「これを実現するための前提となる諸条件がいまだ多くの点において整備されたとは到底言えない」とするなど、いずれも棚上げしています。さらに、市民や社会的弱者の人権救済にとって不十分な裁判の実態やその原因としての司法官僚制についてはほとんど論及せず、その存在を前提とした上での形式的な「裁判の迅速化」が裁判(所)改革として強調されています。審議会の中間答申に強い影響力を与えることが予想されるだけに、 問題のある提言と言わざるをえません。

2. 現在の裁判官は、司法試験合格後、最高裁判所が運営する司法研修所で養成され、最高裁判所の選任権限によって判事補として任用され、先輩裁判官の指導の下で裁判実務の経験を積み、最高裁判所事務総局の司法行政権限によって任地・昇格・昇給が決定され、10年ごとに再任されます。こうしたキャリアシステムは、一方では裁判官の均質化や裁判の統一性・安定性をもたらすメリットがあるとされています。
しかし、我が国のキャリアシステムは、最高裁事務総局による任地・給与・昇格(部総括への採用など)における人事政策や司法行政に関する権限の最高裁への集権化、「裁判官会議」、「会同」の開催等を通じた裁判官に対する有形、無形の影響力の行使により裁判官への萎縮効果を生じさせ、裁判官の目を市民や社会的弱者ではなく最高裁判所に向けさせ、その結果として大企業や行政に有利で、市民や社会的弱者の権利救済に消極的な判断に傾くという問題を生じさせています。
例えば、行政訴訟や国家賠償訴訟では、裁判官が行政官庁の判断や裁量権を優先して消極的司法判断を下す裁判例が多く、行政に対する司法のチェック機能を十分に果たしていないのではないでしょうか。刑事事件では、捜査段階における令状請求に対するチェックや、公判における捜査や証拠に対するチェックが弱く、調書裁判、すなわち、裁判官が捜査機関の 作成した供述調書等をそのまま信用する姿勢が顕著です。また自白しなければ保釈がほとん ど認められないなど、「無罪推定の原則」が形骸化しています。消費者事件や労働事件にお いても、消費者、労働者の権利救済という視点が弱く、市民の常識から乖離した判決が少く ありません。
さらに、裁判官の市民的自由が問題となった寺西判事補分限裁判(最決平10・12・1、仙台高裁の戒告決定に対する即時抗告を棄却)や任官拒否が問題とされた神坂任官拒否国賠訴訟(大阪地決平12・5・26)は、裁判官の市民的自由が侵害されている実情や修習生から裁判官への任官における採用基準の不透明さを、あらためて浮き彫りにしました。

3. このように、裁判所の実態には問題があり、市民や社会的弱者の人権救済にとって不十分と言わざるを得ません。ところが最高裁判所は、一定の手直しは提案しつつも、現在の裁判所のあり方そのものに根本的変革は加えない現状肯定論を打ち出すとともに、法曹一元や陪審制度については、導入のための基盤が整備されていないなどとしてこれ に反対しています。
こうした裁判所の姿勢から見て、裁判所の改革を最高裁に期待することは困難と言わざるを得ません。裁判官のキャリアシステムを改革し、自由で独立した裁判官が公正な裁判を行うためには、市民のかたわらで紛争の実態に接した経験豊富な弁護士を中心として優れた法律家の中から裁判官を任用するとともに、裁判官の養成・任用・監督の全般にわたって、職務の独立性を制度的に確立することが不可欠であります。
また、裁判への市民参加制度のなかったことが、市民を司法から遠ざけ、かつ、人権救済機能が十分に発揮されない実態をもたらしたのであり、国民主権主義を司法の分野にも生かす陪審制の復活・改善を視野に入れた改革が優先的に検討されるべきであります。
したがって、司法制度改革審議会においては、人権救済機能が不十分な裁判所のかかえる実態やその原因である司法官僚制を抜本的に改革することの必要性について、今後十分に議論される必要があります。

4. 私たちは、以上の「市民参加の司法」制度改革に加えて、社会のすみずみまで法の支配を及ぼすための法曹人口の適切な増大、過疎地対策、法律相談活動の拡大など、法的 サービスの一層の充実を通じて、市民が困ったときに頼りになる「市民のための司法」 を目指して取り組みを強めたいと思います。

5. 私たち弁護士は、日頃の実務経験に基づいて、司法制度改革審議会に対し、法曹一元と陪審制が市民参加の司法制度改革の優先課題としてその実現にむけて今後十分に検討されることを強く求めるとともに、私たち自身も、市民のため司法を実現すべく自己改革に取り組みつつ、裁判所が市民や社会的弱者の人権救済機関として十分に機能することを目指して司法制度改革に取り組むことを決意するものです。

2000(平成12)年7月18日千葉県弁護士会の全体討論集会における討論及び同月19日の常議員会の議決に基づいて以上のとおり声明します。

2000年(平成12年)7月19日

千葉県弁護士会
会長 守川 幸男