千葉県弁護士会
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会長声明

千葉地方裁判所松戸支部における労働審判の実施を求める決議

 当会は、裁判所に対し、地域における司法制度が住民にとって利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとなるよう、地域司法の充実を求めるとともに、千葉地方裁判所松戸支部において早期に労働審判を実施することを求める。  以上のとおり決議する。

2016(平成28)年5月20日
千葉県弁護士会定期総会

決議理由

1 地域司法充実の必要性

 2001年に発表された司法制度改革審議会意見書は、「『国民の期待に応える司法制度』とするため、司法制度をより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとする」ことを改革の柱に挙げている。
 しかし、それから14年以上が経過した現在、全国各地をみると、裁判官の常駐していない地方・家庭裁判所支部や調停・審判を実施しない家庭裁判所が多数存在し、支部を含めて裁判所が必要な地域に裁判所が新設・復活されないなど、裁判所支部や家庭裁判所出張所、簡易裁判所等の管轄地域における司法基盤の整備は遅々として進んでおらず、いまだ前記意見書が掲げる「利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある」司法制度の実現に至っていない。
 本来、憲法第32条が定める「裁判を受ける権利」は、いかなる地域の住民であっても等しく保障されるものでなければならないのであって、裁判所においては、「裁判を受ける権利」の地域間格差の解消のためにその責務として適切な措置を講ずることが強く求められることは言うまでもない。
また、当会としても、今後も地域住民、関係自治体、日本弁護士連合会及び関東弁護士会連合会とともに、地域司法の基盤整備のため一層の努力をする所存である。

2 千葉地方裁判所松戸支部において労働審判の実施を求める理由

 現在全国の裁判所支部で労働審判が行われているのは、東京地方裁判所立川支部と福岡地方裁判所小倉支部だけである。そして、今般、日本弁護士連合会及び最高裁判所の間で行われた地域司法の基盤整備に関する協議において、2017年4月より長野地方裁判所松本支部、静岡地方裁判所浜松支部及び広島地方裁判所福山支部における労働審判の実施が決定されたものの、その他の支部での実施は見送られた。
 千葉地方裁判所松戸支部管轄地域(松戸市、柏市、流山市、我孫子市、野田市及び鎌ヶ谷市。以下「松戸支部管轄地域」という。)においては、2014年の統計によると、事業所数は4万3624、従業者数は44万8528人にのぼっており、同数字は、前記福岡地方裁判所小倉支部及び新たに労働審判の実施が決定された3支部とほぼ匹敵するかそれを上回る。
 それにもかかわらず、千葉県内では、千葉地方裁判所本庁でしか労働審判が実施されていない。松戸支部管轄地域から千葉地方裁判所本庁までの公共交通機関を利用しての移動には概ね往復3時間程度を要し、さらに野田市には往復4時間以上かかる地域も存在する。そのため、松戸支部管轄地域内の労働者・使用者が労働審判を利用するためには、仕事を丸1日休む必要があるなど、利用者にとっての距離的・時間的負担は極めて大きい。このことから、本来、労働審判を利用するのが適切な事案であるにもかかわらず、労働審判の申立を諦めてしまうという憂慮すべき事態が生じる可能性もある。
 このようなことから、松戸支部管轄地域においては、労働審判が実施され、又は実施が予定されている支部と同様、相当多くの労働紛争が発生していると推測されるにもかかわらず、距離的・時間的負担から労働審判を利用しにくい状況があり、千葉地方裁判所松戸支部で労働審判を実施する必要性は高い。
 また、裁判所支部において労働審判を取り扱うことについて、一般的に、物的施設の問題や、労働審判員の確保の問題を指摘されることがある。しかし、千葉地方裁判所松戸支部は、2013年6月に新庁舎の建て替えが完了しており、審判廷等の確保には問題がないと思われるし、松戸支部管轄地域における事業所数・従業者数からすれば、労働審判員の選出も期待できる。

3 よって、当会は、裁判所に対し、千葉地方裁判所松戸支部において、早期に労働審判を実施することを求める次第である。

以上

2016年(平成28)5月20日 千葉県弁護士会 会長  山村 清治